◆卒業生投稿
2019年6月24日骨粗鬆症(疲労骨折)〜東洋医学的所見〜
女性アスリートの三主徴(Female Athlete Triad)の1つである骨粗鬆症は東洋医学的視点でみるとアスリートに多い疲労骨折も含まれるのではないか。 骨粗鬆症とは骨強度の低下により、骨が脆くなり骨折しやすくなる骨疾患で、閉経以後の女性に好発します。疲労骨折とは骨の同一部分に、外力が繰り返し加わることで起こる骨折です。一度にかかる力は強くなくても、何度も続けて力が加わると、金属疲労のようにその部分が脆くなっていきます。 両者は同義語ではありませんが、何故そのように考えるのか。
東洋医学的視点で見ても両者共に骨と関与し、どちらも腎(精)の遣い過ぎにより起こるものだと考えられるからです。
- 「腎は骨を主る」-「素問」宣明五気篇第二十三
- 「腎は人体の骨髄を主る」-「素問」痿論篇第四十四
「長距離を歩行して疲労したり、日に照らされたりすると、熱が内攻して腎水が枯れてしまう。すると髄液も枯れて足がガクガクしだす。それは腎熱になるからだ。」と池田政一先生の著書である素問ハンドブックでも解説があるようにこれが走ったり、跳んだり、投げたりと更に大きな力を出す動きになると益々、骨、腎への負担が高まり、疲労骨折へのリスクが高まるであろうことが想像できます。 ちなみに短距離選手と長距離選手では身体つきが違いますね。短距離選手は短時間にいかに強い力を出すかという競技ですので、肝の主る筋が発達しています。反対に長距離選手はある一定の力をどれだけ長く出し続けるかという競技ですので、肌肉や筋よりも骨に比重がかかった身体になっています。 長距離種目を専門とする女性アスリートにとって日々のトレーニングの負荷が高くなればなるほど疲労骨折のリスクを避けることは難しくなるのが現状です。また閉経によりエストロゲン(女性ホルモン)欠乏から骨粗鬆症のリスクが高まる現象と同じく日々のトレーニングによって無月経の状態が長期にわたり続いているアスリートも骨密度、骨強度の低下が見られます。エストロゲンは破骨細胞の働きを抑制し骨吸収を抑えます。閉経により急激に減少するので破骨細胞の働きが活性化し、骨量も急速に減少していきます。 反対に男性ホルモンと呼ばれるアンドロゲンは骨強度の低下を緩和します。このため男性は女性に比べて骨粗鬆症、疲労骨折は少ないと言われています。(もちろん全ての男性においてではありません) 無月経によるエストロゲン欠乏に対してホルモン剤の投与を積極的に勧められていますが、これもまた安易に使用することで西洋・東洋医学的両視点において問題があることも臨床現場で実証されており、今後も向き合っていくべき課題ではあります。 少し話はずれますが、月経時はトレーニングの負荷が強いと故障のリスクが高まると言われるのは血、津液の消耗により血虚、(肝腎)陰虚の状態になり、一時的な腎の固摂の低下により関節や骨盤が緩みやすくなる為と考えられます。(産後の骨盤の緩みも同じように考えてよい)そのような状態で大きな力を出そうとすると当然故障に繋がることは想像がつくはずです。 では日々のトレーニングの問題を除いて、腎(精)の使い過ぎを抑えるにはどうすればよいのか?
それは甘味の摂り過ぎに注意をすることです。
甘味はあらゆるものを緩める作用を持っています。骨はしっかり固まっていないといけません。心身の緊張を緩めるには適度な甘味は必要です。しかし、必要以上に摂り過ぎると緩み過ぎることで腎精は漏れ出ていきます。身体のあらゆる部分に締まりはなくなり、骨も脆くなっていきます。 子供は腎精を漏らしながら成長していきます。(身体を大きくしていく) 現代はお菓子だけでなく、ファストフード、菓子パンや清涼飲料水などの人工的な甘味がすぐに手に入る環境であり、幼少期から口にする機会が増えています。そのような環境が成長期の段階で確立していると、知らず知らずのうちに甘味の摂り過ぎにより、幼少期からの肥満傾向、脆い骨になっている可能性は高くなります。理想としては穀物や芋類で自然な甘味の摂取ができるといいですね。 アスリートはこれ以上やると危険だなと思うギリギリの状態で日々厳しいトレーニングに励んでいます。しかし身体の内側部分に対しては直接可視化し辛い為に無理をしてしまいます。痛いと言えない環境、休むことが恐い、休み方がわからない、そんなアスリートはたくさんいることが現状であり、選手生命を絶った者も少なくありません。 トレーニングに限らず、やりっぱなし、使いっぱなしではいけません。 身体が疲労したならば、当然栄養補給をし、睡眠や休息をとって回復に努めます。 心が緊張して疲弊しているのであれば適度に甘味を摂ったり、お風呂に浸かったり、好きなことをして緊張を緩めてあげればよいのです。 その場面に応じて対処してあげれば取り返しのつかない最悪の状態は避けられます。 そして、腎(精)の使い過ぎを抑える方法としてもう1つ大切なことがあります。
それは心や時間にゆとり、余裕を持つことです。
気を遣い過ぎたり、焦ったりすることで腎精は消耗します。 トレーニングで負荷がかかることは上を目指すアスリートである限り仕方のないことです。だからこそトレーニング以外の時間をどう使うかで個々の競技力、パフォーマンス能力に差が出て来ます。 女性アスリートの三主徴といわれる骨粗鬆症(疲労骨折)、視床下部性無月経(運動性無月経)、利用可能エネルギー不足(以前は摂食障害)これらは陰陽・五行のバランスの崩れであり、一つでも支障が起こると全て関連して、心身は崩れていきます。 折れた骨を鍼灸で修復することは難しいですが、そこに至るまでの段階でアプローチすることは可能であり、また一日も早く復帰する為に気血の循環のお手伝いは鍼灸の得意分野であります。 鍼灸治療とは痛みのある部分に治療をするのではなく、全身の気血を動かし、滞りを取り除き巡らせるものです。本来はとても気持ちの良いものなのです。 今も尚研究段階ではありますが、鍼灸師、トレーナーやアスリートと関わる全ての方々にとってアスリート達の選手生命を守る1つとして知っていただける機会となれば幸いです。【はり灸碧空福森千晶(専/鍼灸学科41期)】