女性アスリートの月経によるコンディショニング~東洋医学的所見~(後編)

◆卒業生投稿

2019年4月15日 (2020年3月20日更新)

女性アスリートの月経によるコンディショニング~東洋医学的所見~ ~東洋医学的所見~ (後編)

月経が止まってしまった原因がはっきりしています。それはトレーニングです。

そして、この月経が止まるのは止まるべくして止まっています。身体を正常に保とうとする為に意味があって止まっているのです。よって月経がくる、こないは放っておきます。その子の身体が現わすままにしておくようにします。

ただし、定期的に鍼灸治療に来させて瘀血にならないかを時々気をつけて確認すべきです。

瘀血とは身体の中で巡らなくなった血液のことです。

気血を多く消費するアスリートの多くが血虚の脈になります。それが瘀血の脈や瘀血の腹証が出ていれば、それは無月経の原因はトレーニングだと言えなくなります。

そこの判断をしなければトレーニングを止めても、体重を増やしても月経は来ません。実はトレーニングが原因ではなく、他の身体の異常からであったということになります。

よって、女性アスリートは定期的に診察し、瘀血が生じていないかを確認します。これは当然パフォーマンスにも大きく関わってきますので、瘀血が生じた時はきっちりと治療を継続させるようにします。

瘀血の脈―沈弦実 *明らかに血虚の脈と違います
瘀血の腹証―下腹部の抵抗や右脇部の抵抗

また、瘀血によって引き起こす症状
  • 故障が長引く、繰り返しやすい
  • スポーツ貧血のような症状(血液検査では気づかない)
  • うつ傾向(気分が上がらない・やる気が出ない)
  • 疲労骨折のリスク↑
運動性無月経は女性アスリートの三主徴の一つとされ、このほかエネルギー不足、骨粗鬆症が大きな問題として挙げられています。これが原因だと一つに決定しがたく、様々な要因が絡み合って、起こっているものだと私は思います。

本当に強いアスリートとはただ速い、ただ強いだけでなく、心身共にイキイキとしています。

月経があるのは練習不足だからだ、身体が絞れていないからだ、というような発言は選手生命に限らず、女性としての生命を絶たせることを助長しているに等しいのです。 以前の私は男性指導者や男性トレーナーへ理解していただきたいと発言していましたが、撤回します。女性指導者自身がわかっていない。自身の身体を守れていないのが現状です。

生理痛があることが普通だと思っている方が本当に多いのです。正しくコントロールできれば、必ずパフォーマンスは上がります。この部分をしっかりアプローチすることがアスリートへの心身のケアになり、選手やその御家族、指導者が治療家に対しての大きな信頼へと繋がります。

アスリートは選手生活を終えたあとも人生は続いていきます。

私は一日60㎞走ろうが、月間1000㎞の練習メニューであろうが、辛く思うことはありませんでした。それは自らの意志でやっていたからです。ただ、やりすぎでした。

自分の心、命、性と向き合うことなく、思春期を終えてしまいました。特に女性は妊娠を望むとき、心身の状態が整っていなければなりません。引退してから対処すればいいやでは後になり、必ず代償がやってきます。

やはり、選手のときから自分の身体と向き合う時間、女性としての心身と向き合う時間がいかに大切なことか、彼女達と関わる中でじっくりと伝えていかなければならないと日々の臨床を通じて感じています。

現役を引退後、流産や不妊、不育症で悩むかつての同志を身近に何人もみてきました。

特に腎を消耗して走る長距離ランナーの割合が高いのは当然のことなのでしょう。

このような現状に対して、仕方がないで終わらすのではなく、鍼灸治療がケアの一つとして有効性が高く、問題改善へサポートできるものだと伝え、実践していくことが今後の私の課題です。またスポーツ内科医、産婦人科医、管理栄養士、薬剤師、指導者、御家族、その他サポートに尽くされる方々と手を取り合い、正しい情報を提供し合える関係性、環境を整えていくことが何より必要なことであると思います。

成長段階である中高生が全国レベルまでに達したあと、記録に伸び悩む、もしくは引退が早いなどの問題が注目されていますが、これらもきっと上記に述べたことを実践すれば、改善解決に繋がると思います。

階段は一段一段のぼっていくことが、強く太く、選手生命の長期寿命へ繋げる何よりの秘訣だと私はそう思います。

自身を育ててくれた陸上競技の世界が更に発展し、盛り上がるよう、また女性を忘れずにアスリート、選手として全うできる方が一人でも多く増えることを切に願います。

はり灸碧空 福森千晶(専/鍼灸学科41期)】