◆ ブログ
平成30年5月26日
第3回 チーム – 穴田夏希 – 森ノ宮校友会連載ブログ②
第3回 チーム
前回、他職種との架け橋の作り方をお示しすると、大口を叩きましたが、私自身も訪問鍼灸に携わっていた際に、看護師や理学療法士、介護支援専門員の方々と積極的に関わることをせず、完全に独立した存在として患者様のご自宅へ訪問していました。独立しているというよりは、「孤立」と表現するほうが正しいかもしれません。
非常に苦い経験があります。もう何年も前になりますが、パーキンソン病を患っている患者様のご家族からご要望を受け、週に二回程度訪問鍼灸施述を行っていました。主訴は四肢の震えや、固縮、二次的な拘縮だったと記憶しています。私なりに鍼灸という側面から主訴に対してアプローチしていましたが、進行性の疾患であることと、私の腕のなさからか、やはり症状は緩徐に進行していきました。その患者様は程なくして自宅内で転倒され大腿骨近位部骨折を受傷、入院という転帰を辿ります。当然鍼灸治療を受けるような状況ではなくなりました。本邦における地域在住高齢者の過去一年間の転倒発生率が約20%であるのに対して、外来通院パーキンソン患者の、過去一ヶ月の転倒率が67.7%との報告があることからも、患者様が自宅内で転倒されたことは致し方ないこととも捉えられます。しかし、本当に防ぐことはできなかったのでしょうか。後に知ることになるのですが、実はその患者様は鍼灸の他に、訪問リハビリと訪問介護を利用されていました。独居ではありましたが、ほとんど毎日、様々な職種が出入りしていたようです。しかも訪問リハビリと介護はお互いに連携を取り、患者様の身体状況からこのような介助が必要だとか、自宅内ではこうやって転倒予防をしようとか、訪問した際は職種に関わらず身体面、環境面などとにかく変化があれば報告するような仕組みがありました。私はというと、鍼治療をして帰るだけ。週に二回も自宅に伺っているのに。鍼灸師ですので鍼治療をするのは当然なのですが、在宅医療や介護に関わるチームの一員だという意識が欠けていました。今思えば共有するべき情報があったかもしれません。
前置きが長すぎて飽き飽きしてきたと思いますが、それでは、どうするべきだったのか。
今回の事例のように在宅サービスを利用されているのなら、担当の介護支援専門員と連絡をとり、「サービス担当者会議」に出席するなり、他の職種と顔を合わせる機会を設けるべきでした。本来サービス担当者会議はケアプランの作成や変更のために実施されますので、療養費や実費で介入する鍼灸師には関係のない会議なのかもしれません。しかし、ご本人様や家族様、関連職種が一堂に会する機会は非常に貴重なので、そこに出向く意義はあると思います。例えばですが、そういった会議に参加することで、鍼灸治療の経過を説明し、その効果や今後の方針について共有できます。リハ職種や家族様などから違った視点や意見を知り、視野を広げることもできます。また、訪問した際にどんな変化に目を配り、どういったことを報告すればいいのかなどを確認しておくことができます。何より、患者様を中心とした「チームの一員」になることができます。それぞれが独立して闇雲に患者様に関わるのではなく、みんなで同じ方向に力を合わせる。どちらが患者様の利益になるのかは明白です。
社会はチームの一員になれる鍼灸師を求めています。
【理学療法士/柔道整復師/鍼灸師 穴田夏希(柔道整復学科7期)】
続く。